仏像を彫り、絵を描き、6弦フレットレスベースを奏でる服部龍生。2026年10月7日の池袋Absolute Blue公演を入り口に、その表現と、各地のライブを支える人たちを訪ねます。
取材・文:菅原 孝(BMマガジン編集部)
公演・取材日:2026年10月7日/会場:Absolute Blue(東京・池袋)
出演:服部龍生、Mas Koga
2026年10月7日、池袋のライブハウス「Absolute Blue」を訪れた。出演は、6弦フレットレスベース奏者・服部龍生と、ニューヨークを拠点に活動する管楽器奏者・Mas Koga。二人によるデュオライブだ。
青い照明の下、客席のすぐ目の前で二人が楽器を構える。テーブルに飲み物を置き、演奏者の表情や指先を見ながら音楽を聴く。こうした距離で音楽に触れられることが、ライブハウスに足を運ぶ楽しみの一つだ。
龍生の魅力を伝えるには、音楽だけでは少し足りない。仏像を彫り、絵を描き、ベースを奏でる。そして、マネージャーとともに各地を訪ね、そこに集まる人たちと時間を共有する。その活動を、何回かに分けて紹介していきたい。
なお、BMマガジンは今回のツアーをスポンサーとして応援している。
出会いのきっかけは、小さな仏像
龍生と知り合ったのは、とあるSNSのオフ会だった。
最初に興味を引かれたのは、彼が手のひらに乗るほどの仏像を彫っていることだった。小さな像に刻まれた顔の表情、衣のひだ、細かな装飾。その器用さに驚き、「この人の演奏を聴いてみたい」と思った。
僕と龍生の音楽との関係は、そんなところから始まっている。

ライブツアーで定期的に東京を訪れる彼は、僕の勤務先から1キロも離れていない神楽坂でも演奏していた。聴きに行くきっかけは身近にあった。
ただ、初めて聴いたときは、少し戸惑った。ジャズとも、フュージョンとも言い切れない。自分の知っている音楽の分類には、すんなり収まらなかった。
「何だ、この音楽は」
その感覚が、二度、三度と聴くうちに変わっていく。また生で聴きたくなる。最初はつかみきれなかった音楽が、いつの間にか、自分にとって楽しみなものになっていた。
画家としての龍生。音とは違う形で表れる世界
龍生は画家でもあり、油絵を描き、個展も開いている。
展示された作品には、赤や青、黒などの色が重なり、近づいて細部を見たくなるような表情がある。作品の前に立つ龍生の写真からは、ステージとはまた違った創作者の姿が伝わってくる。

仏像には、小さな形を丹念につくり込む仕事がある。絵画には、色や質感を重ねて一つの画面をつくる仕事がある。音楽には、音を選び、響きを組み立て、時間の中に作品を生み出す仕事がある。
僕には、そのどれにも、同じ人の手が通っているように感じられる。
絵を見てから音楽を聴く。音楽を聴いてから仏像を眺める。そうすることで、龍生という人の見え方も少しずつ変わってくる。演奏技術だけでは語りきれない魅力が、そこにある。

6弦のエレキベース一本で、各地へ
今回はデュオでの出演だったが、龍生の普段の活動の中心には、エレキベース一本で聴かせるソロ演奏がある。使うのは、6弦フレットレスベース。クラシックギターを思わせる奏法で、オリジナル曲を奏でる。服部龍生公式サイト
2001年に6弦ベースのソロ活動を開始し、2005年には米国のInternational Live Looping Festivalにヘッドライナーとして招聘された。海外公演を重ね、2016年には村上“PONTA”秀一とのデュオを始動。翌年から「Duo Bleu」の名で活動した。2019年のアルバム『Ryusei Hattori』には、森崇とMasaru Kogaが参加している。公式略歴
そのすごさは、ベース一本で自分の音楽を成立させ、聴き手を繰り返し会場へ向かわせるところにあると思う。
演奏する場所も、ライブハウスに限らない。神社や、廃校を活用した地域スペースなど、さまざまな場所へ出かけていく。必要な機材を車に積み、基本的には龍生とマネージャーの二人で各地を回る。
いつものファンが待つ場所もあれば、地域の催しをきっかけに初めて聴く人が集まる場所もある。かつて学校だった建物に、今度は音楽を聴くために人が集まる。そうした出会いも、龍生の活動を知るうえで欠かせない。
同じ曲でも、会場が変われば響き方や感じ方は変わる。演奏者を追いかけることが、その土地や場所を知ることにもつながっていく。
Masさんの4種類の楽器と、デュオの広がり
10月7日の公演では、Masさんが4種類の楽器を演奏していた。写真にはサックスやフルートを手にする姿が残っている。楽器が替わるたび、ベースと向き合う音の組み合わせも変わる。

龍生のソロには、一人で音楽を描ききる味わいがある。デュオには、そこへもう一人の表現が加わる楽しみがある。
僕には、その広がりが、単純に二倍になるとは感じられない。それぞれの音楽が重なり合ったとき、予想していた以上の大きさになる。ソロを聴くほどデュオが楽しみになり、デュオを聴けば、森崇も加わるトリオへの期待が膨らむ。
同じ楽曲でも、編成や場所によって違う表情に出会える。その違いを味わえることも、何度も聴きに行きたくなる理由だ。
演奏の時間を支える、もう一人の仕事
BMマガジンでは、表舞台とともに、それを支える裏方の仕事にも目を向けている。龍生の各地での公演も、基本的には龍生と志茂迫マネージャーの二人で回っている。
マネージャーは会場との交渉や調整を担い、当日はレコードやフライヤーを並べて、来場者を迎える準備をする。ライブハウスでは、入場の案内は店側が担う。演奏に使う楽器や音響機材は、龍生自身が運んでいる。
ライブ前や休憩時には、龍生もマネージャーも来場者との会話を楽しんでいる。演奏を聴くだけでなく、言葉を交わせる親しみやすさも、このライブの魅力だ。
音楽を奏でる人、その活動を支える人、聴きに訪れる人。互いの顔が見える関係の中で、各地のライブが続いている。
Absolute Blue——駅前にある、身近な音楽の場所
今回の会場、Absolute Blueは、池袋駅西口から徒歩1分と案内されているライブハウス。豊島会館の地下2階にあり、ジャズ、ファンク、ソウル、R&B、ロックなど、幅広い音楽を扱っている。店舗公式サイト
オーナーの星川あゆみさんは、ニューヨークでジャズクラブを経営した経験を持ち、2015年2月にAbsolute Blueを開いた。音と演出にこだわり、女性一人でも入りやすい場所を、交通の便利な場所につくりたい。その思いが店の出発点になっている。公式オーナー紹介
今回の客席は、テーブルやソファーに座って演奏を楽しむスタイルだった。演奏者の手の動きや表情まで見える距離感がある。店内に展示された色鮮やかな衣服も印象的で、店が展開するセレクトショップと音楽の場が同居している。

今後のライブハウス取材では、こうした会場の特徴も共通の項目で記録していきたい。
| 項目 | Absolute Blueの特徴 |
|---|---|
| 場所・アクセス | 東京都豊島区西池袋1-15-6 豊島会館地下2階。池袋駅西口から徒歩1分 |
| 音楽の傾向 | ジャズ、ファンク、ソウル、R&B、ロックなど |
| 客席 | テーブル席やソファー席を備える。今回の公演は着席スタイル |
| 演奏者との距離 | 今回は客席のすぐ前で、指先や表情を見ながら演奏を楽しめた |
| 空間の特徴 | 白を基調とした内装、ステージを彩る照明、衣服の展示 |
| 店づくり | ニューヨークでのクラブ経営経験を持つオーナーが、音・演出・入りやすさを重視 |
| 当日の料金 | 音楽料金4,500円(税込)、別途1ドリンク注文。料金は公演によって異なる |
| 来場時の参考 | 場内禁煙。座席や予約方法は各公演の案内を確認 |
| 店ならではの活動 | アパレルのセレクトショップも展開 |
店舗情報は公式サイト、客席構成は公式座席表、当日の料金は公演フライヤーを参照。
演者、支える人、聴く人。その三者でつくられるライブ
ライブは、演奏する人、マネージャーをはじめとする支える人、そして聴きに訪れる人の三位一体で成り立っている。会場を開き、迎えてくれる人たちも、その大切な一員だ。
客席にいるのは、長く応援してきたファンだけではない。その場所が好きで訪れた人、友人に誘われた人、近所で公演があると知って来た人もいるだろう。初めての一人が加わることで、音楽の届く先がまた一つ増える。
ライブハウスに行き慣れていなくても、難しく考えなくていい。僕が訪れてきた東京の会場では、一人で聴きに来る人も少なくない。席や注文の仕方がわからなければ、店のスタッフに尋ねればいい。
初めての音楽を、その場ですべて理解する必要もないと思う。僕自身、龍生の音楽との出会いは戸惑いから始まった。それが今では、次の公演を楽しみにする関係になっている。
小さな仏像から始まった縁は、絵画へ、音楽へ、そして各地の会場へとつながった。
次に取材を予定しているのは、10月22日(木)、南青山・ZIMAGINEでの「Ryusei & Mas DUO」。同じ二人の音楽が、別の空間でどう感じられるのか。演奏とともに、その時間を支える人たちの姿も見つめていきたい。ZIMAGINE公式公演案内

