AIに旅行計画を頼んでみた。今回は、うまくいった。前夜まで行き先すら決まっていなかった家族の日帰り旅行が、長瀞の川下り、秩父の名物料理、神社への参拝を楽しむ一日になった。何より、久しぶりに家族で笑い合い、仕事から気持ちを離すことができた。翌日は、いつも以上に仕事がはかどった。
ただし、今回の成功を、そのまま「AIに任せれば大丈夫」という結論にしてはいけない。便利さを実感したからこそ、使う側の判断についても考えておきたい。
文・写真:菅原 孝(BMマガジン編集部)
旅行日:2026年10月11日(日)
前夜10時から、AIとつくった家族の旅行計画
2026年10月11日、家族4人で長瀞・秩父へ出かけた。きっかけは、それぞれに溜まっていた仕事や生活のストレスだった。普段は予定が合わず、そろって顔を合わせる機会も少ない。三連休の中日だけなら全員が集まれると分かったのは、出発の4、5日前のことだった。
「どこへ行こうか」
そう言いながら、誰も行き先を決めない。どうしても訪ねたい場所があるわけではない。たまには一緒に出かけて、気分転換ができればいい。皆、そんな気持ちだった。
結局、前日の午後10時を過ぎてから、私がChatGPTの画面を開いた。
秩父には何度も行ったことがある。それでも、わらじカツを食べたいという思いが浮かんだ。御朱印集めも趣味だが、秩父神社にはまだ参拝していない。紅葉の最盛期には早そうで、長時間歩き続けるには体調が気になる家族もいる。
そこから長瀞を思いつき、調べるうちに秩父ミューズパークも候補に入った。食事、参拝、自然の中での気分転換。この三つをつなぎ、途中で家族を迎える場所も加えて、小旅行のプランをAIに組んでもらった。
すると、長瀞の川下りまで盛り込んだコースが出てきた。
川下りは、最初から考えていたわけではない。「せっかく行くなら、乗ってみようか」。自分だけでは選ばなかった体験が、旅の楽しみとして加わった。こうした提案の広がりは、AIを使う面白さだと思う。
最初の案は夕方に帰宅する日程だったが、翌朝の出社予定がある家族はいない。運転できる人も2人いる。食事や休憩にも時間を取りたかったので、帰宅時刻を急がず、もう少し余裕のある計画に組み直してもらった。
車で出かけるため、駐車場の住所も追加した。ただ、表示された住所や施設情報がナビの検索結果とうまく一致せず、目的地を設定しにくい場面があった。そこで、駐車場や近くの施設の電話番号も調べるよう指示し、計画書にまとめた。
出来上がったのは午後11時ごろ。翌朝は5時に起き、6時に出発した。

往路では事故や故障の影響で、到着が予定より1時間以上遅れた。それでも、全体としてはおおむね予定に沿って旅を楽しむことができた。計画をつくり直して余裕を持たせたことが、結果として役に立った。
初めての川下り。100年を超える歴史と、今年の長雨
4人のうち、長瀞を訪れたことがあるのは1人だけ。川下りは全員が初めてだった。

乗船した「長瀞ラインくだり」には、100年を超える歴史がある。秩父鉄道の説明によると、そのルーツは、秩父山中の原木を江戸へ運んだ「いかだ流し」。1915年に「長瀞遊船」として開業し、1923年春から秩父鉄道の直営となった。現在も同社が運営し、船頭の技とともに長瀞の自然を伝えている。秩父鉄道の歴史紹介と現在の運航案内に、その歩みと営業情報が掲載されている。
もっとも、自然を相手にする観光は、予定どおりに営業できるとは限らない。今年は長雨の影響が大きく、9月16日の報道では、荒川の増水により11日連続で運休していたという。私たちが訪れたのは、川下りが再開して一週間ほどたった頃だった。FNNの報道でも、長雨が観光地に及ぼす影響が伝えられていた。
写真に写る青空だけを見れば、それ以前に続いていた悪天候は想像しにくい。しかし、公式案内でも増水や渇水によって営業を見合わせる場合があるとされている。AIが旅程に入れてくれたとしても、その日に乗れるかどうかは、現地の状況で決まる。
わらじカツと豚みそ丼。旅先の一食にも土地の歴史がある
川下りの後には、楽しみにしていたわらじカツと、豚みそ丼を味わった。
大きなカツがご飯を覆うわらじカツ丼は、小鹿野町の「安田屋」が発祥とされる。昭和初期に提供されていたカツ丼が、大きなカツ2枚を一足のわらじに見立てて呼ばれるようになったという。卵でとじず、しょうゆをベースにしたたれにくぐらせるのが特徴だ。地元で親しまれてきた料理が、ツーリング客の口コミなどを通じて広まり、秩父を代表する名物になった。埼玉新聞による店主への取材には、その由来が紹介されている。

一緒に食べた豚みそ丼にも、土地の食文化が息づいている。「豚みそ丼本舗 野さか」の説明では、秩父の豚肉の味噌漬けは、もともと猪肉を保存する知恵に由来すると伝えられている。同店は、その伝統食を生かした丼を開発し、2008年7月に豚みそ丼専門店として再出発した。昔からの保存食と、新しい名物料理。そのつながりを知ると、旅先の一食も少し違って見えてくる。野さか「誕生秘話」に、その開発の経緯が記されている。

秩父神社とミューズパーク。地域が受け継ぐ場所を訪ねる
秩父神社への参拝も、今回かなえたかったことの一つだった。
同神社の由緒では、崇神天皇の時代、知知夫彦命が祖神を祀ったことに創建の起源を置いている。中世には妙見信仰と結びつき、秩父妙見宮として栄えた。現在の社殿は1592年、徳川家康の寄進によるもので、埼玉県の有形文化財に指定されている。長く地域の信仰を支えてきた場所で御朱印をいただくことも、旅の記憶になった。秩父神社の由緒に、その歴史が紹介されている。

行程に組み込んだ秩父ミューズパークも、地域とともに歩んできた場所だ。秩父市と小鹿野町にまたがる長尾根丘陵に広がり、1991年7月に「ミューズパーク」として開業した。名称は、ギリシャ神話で芸術や学問を司る女神たち「ミューズ」に由来する。日本ジオパークネットワークの紹介と公園公式サイトに、その成り立ちが説明されている。
現在は県営、市営、町営の施設などが共存し、県営部分は株式会社秩父開発機構が指定管理者として管理運営している。音楽、スポーツ、自然の散策が一つの丘陵につながる公園は、さまざまな人の手で支えられている。埼玉県の施設紹介と指定管理者の資料で、運営の体制を確認できる。
行く先々で、若い人が多いことも印象に残った。自然を楽しむ人、食事を楽しむ人。こうした場所が、これからも人を迎え続けてほしい。次の世代へつながってほしい。そんなことを感じる一日でもあった。
家族と笑い、仕事から気持ちを離せた一日
普段なら、旅先でも仕事のことを考える。移動中に気になっていた案件を思い出すこともある。ところが、この日はほとんどなかった。少し頭をよぎっても、すぐに「それは明日、明日」と思えた。
久しぶりに家族で笑い合ったことが、一番のストレス解消になったのかもしれない。
日帰りの小さな旅だったが、気持ちは確かに切り替わった。翌日は、仕事に向き合う気分も軽く、いつも以上に作業が進んだ。AIが助けてくれたのは旅行計画の作成だが、その先には、家族と過ごす時間と、自分の活力を取り戻す機会があった。
AIが学ぶ登山記録と、自分の力量の隔たり
家族旅行を楽しんだ後、AIの回答をうのみにして登山し、遭難したというニュースを目にした。日本経済新聞が紹介したのは、今年5月、北アルプスの槍ヶ岳で男女2人が救助された事例だ。長野県の記録でも、5月27日、槍沢の天狗原分岐付近で、2人が装備不足のため動けなくなったことを確認できる。日本経済新聞の報道、長野県「山岳通信」第447号
この報道を読んで、私は「AIは、誰の登山経験から学んでいるのだろうか」と考えた。
たとえばChatGPTの開発元は、学習に使う情報として、インターネット上で公開された情報、提携先から得た情報、利用者や研究者などが提供・作成した情報を挙げている。ただし、登山に関する情報の内訳や、どの投稿がどれだけ使われたかまでは、この説明からは分からない。OpenAIによる学習データの説明
そこで気になるのが、ネット上に残る登山記録の偏りである。頻繁に山へ出かけ、その様子をSNSなどで発信する人ほど、公開する記録も多くなる。そうした記録には、健脚と呼ばれる人や、長年の経験を積んだ人の行程が数多く含まれているのではないか。これは、私が抱いた懸念だ。
もし、そうした人たちの記録が学習や参照の元になる情報に多く含まれていれば、そこで示されるコースや所要時間が、自分には厳しいものになる可能性がある。経験豊富な人には余裕のある日帰りコースでも、初心者には長すぎるかもしれない。その人が短時間で歩いたという記録が正確でも、自分が同じように歩けるとは限らない。
記録の中の「行けた」「間に合った」という結果だけでは、その人が身につけてきた技術や体力、途中で行った判断までは読み取れない。登った季節、残雪、天候、装備が違えば、同じ道でも難しさは変わる。
だから、AIが示した行程には、自分の経験と体力、同行者の状態、そして当日の体調を重ねて考える必要がある。休憩や遅れを見込み、無理があればコースを短くする。現地の最新情報を確認し、必要なら山小屋や登山相談所などに相談する。予定を守ることより、無事に帰ることを優先したい。
今回の旅行でも、家族の体調や運転できる人数を踏まえ、最初の案に余裕を加えた。AIは希望を整理し、行き先の候補を広げてくれる。その便利さは、確かにあった。ただ、その計画を実行するのは自分たちである。
誰かができたことを、自分もできるとは限らない。AIの力を借りながらも、自分たちに合った計画かどうかを確かめる。その判断まで、人任せにしないことが大切だと思う。
AIと向き合うときに大切にしたい五つのこと
AIと向き合うとき、私が大切にしたいのは、次の五つだ。
- 自分たちの条件を具体的に伝える。目的、体力、移動手段、休憩の必要性など、計画の前提を明確にする。
- 変わる情報は、公式情報で確認する。運航状況、営業時間、道路の通行規制、天気は、出発直前にも確かめる。
- 時間と体力に余裕を持たせる。移動時間だけでなく、渋滞、待ち時間、食事、休憩も含めて考える。
- 変更や中止を選べるようにする。遅れたら一か所減らす、天候が悪ければ別の過ごし方にする。計画を守ること自体を目的にしない。
- 最後の判断を、自分で引き受ける。AIの提案を採用する理由も、見送る理由も、自分の言葉で説明できるようにする。
登山では、さらに慎重な確認が必要になる。信頼できる登山地図や現地の情報を使い、経験や体力に合ったコースを選ぶ。気象、日没、装備を確認し、登山計画書・登山届を提出して家族などとも共有する。届を出せば安全になるのではなく、計画そのものを点検し、状況に応じて引き返す判断まで含めて備えることが大切だ。警察庁の安全登山に関する注意事項も参考にしたい。
AIで旅行計画をつくることは、思っていた以上に使える。行き先の候補を広げ、散らばった希望を一つの行程にまとめてくれる。今回、その便利さが家族の外出を後押ししたことは確かだ。
ただ、AIは一緒に疲れたり、川の流れを見て判断したり、運転を代わってくれたりする存在ではない。現地で行動するのは、自分たちである。
「AIがそう言ったから」で判断を終わらせない。確認し、余裕を加え、必要なら予定を変える。
最後は、自己責任だと思う。それは、困っても助けを求めてはいけないという意味ではない。自分や同行者を守るために、準備と判断を人任せにしないということである。
AIの力は借りる。自分の行動には、自分が責任を持つ。
家族と笑い合えた長瀞・秩父の一日は、仕事への活力とともに、そんなAIとの付き合い方を考えるきっかけにもなった。

