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清掃と建築の間にある「復旧」という仕事――日本レストレーション協会の浸水被害のレストア復旧講習

日本レストレーション協会 浸水被害のレストア復旧講習

浸水被害の復旧は、床の水を吸い取るだけでは終わりません。建材の内部に残る水分を測り、乾燥・除湿の効果を確かめ、安全や契約にも目を配る。日本レストレーション協会の「浸水被害のレストア復旧講習」で、早期復旧を支える技術と人材育成の現場を取材しました。

取材・文:菅原 孝(BMマガジン編集部)
講習日:2026年10月1日~2日/取材日:10月1日のみ
会場:RSAトレーニングセンター(千葉市花見川区)

実際に水をまくモデルルームで、浸水被害を学ぶ

住宅を模した部屋の天井から、勢いよく水が降り注ぐ。絨毯が水を吸い、フローリングの上には水が広がっていく。椅子も床も、遠慮なくぬれていく。その光景を目の前にして、ここまでやるのか、と驚きました。

2026年10月1日~2日に開催された講習のうち、私は初日の1日に取材で訪れました。用意されていたのは、絨毯とフローリングを敷いたモデルルームです。事前に、約1トンの水を用意できる設備だと聞いていました。当日に放水した水量は確認していませんが、床下まで水が回るほどの実演には圧倒されました。水浸しになった部屋を使って学ぶ。そのための設備を用意していること自体に、まず驚かされました。

日本レストレーション協会とは――早期復旧を支える人材を育てる

一般社団法人日本レストレーション協会(JRES)は、2017年に設立された団体です。水害や火災などからの早期復旧を目指し、技術者の育成や施工の標準化、レストレーションという仕事の普及に取り組んでいます。建物を再び使える状態に戻し、被災した人の日常を取り戻すことを支える活動です。詳しくは協会の概要で紹介されています。

その技術は、協会独自の経験則だけで組み立てられたものではありません。ハリケーンなどによる被害にも対応してきた米国の復旧技術を取り入れ、日本の事情に合わせて構成されています。協会はRSA-Japanと連携し、米国の手法を日本向けに調整した実技中心の講習を行っています。経験を個人の勘にとどめず、学び、共有できる技術にしているところに意味があります。協会が紹介する研修の考え方からも、その姿勢がうかがえます。

吸水から乾燥・除湿、水分測定までを一連の工程として学ぶ

講習では、バキュームによる吸水の方法や機材の使い方から、乾燥のための送風機・除湿機の選定や配置まで、一連の流れを実技とともに学んでいました。床に残った水を吸い取る作業は、清掃関係者であればなじみがあるでしょう。しかし、浸水被害の復旧では、そこからさらに建物の内部へと目を向ける必要があります。

絨毯の下はどうなっているのか。フローリングの下地には何が使われているのか。どこに水が入り込み、どの部分に水分が残っているのか。表面が乾いて見えても、その下まで同じ状態とは限りません。床材の構造や材質を理解し、見えないところにある水分を把握することが、作業を組み立てる前提になります。

放水によってフローリング一面に水が広がった訓練用の部屋
写真フローリングに広がる水。復旧では、表面だけでなく床材や下地の状態にも目を向ける。

そのために使う測定機材の紹介と、測定方法の説明もありました。感覚だけで判断せず、状態を測り、その結果に応じて機材や方法を考える。乾燥や除湿を進めた後も、再び測定して変化を確かめる。機材を動かしたという事実だけでなく、どのような効果が出たのかを確認するところまでが、一つの工程になっていました。

座学では、空気に含まれる水分量や、温度と湿度の関係も扱われていました。日頃の清掃作業でも乾燥は大切ですが、浸水被害の復旧では、建材に残る水分と室内の空気の状態を合わせて考えます。機材の性能を知るだけでなく、なぜその配置にするのか、なぜその方法で乾くのかを理解する。その積み重ねが、復旧の確かさにつながるのだと感じました。

フローリングにマット状の器具とホースを配置し、送風機などの乾燥機材を説明する講習の様子
写真床面に配置した器具と乾燥機材を使った説明。機材の使い方とともに、測定による効果の確認も学ぶ。

建材への影響と、作業員の安全を考える

建材への影響とともに、作業員の安全についても、事例を交えた説明がありました。復旧を急ぐ現場であっても、作業する人の安全を確保する視点は欠かせません。建物の状態と、そこで働く人が置かれる状況の両方を見て判断することも、復旧に必要な専門性なのだと感じました。

放水で水を含んだ絨毯と、ぬれた椅子が置かれた訓練用モデルルーム
写真絨毯や家具もぬれたモデルルーム。素材への影響を理解し、安全にも配慮して作業を組み立てる。

依頼主との確認、契約・保険まで扱う講習

もう一つ印象に残ったのは、講習の対象が現場作業だけではなかったことです。依頼主と何を確認するのか。どのような点を話し合い、合意しておくのか。契約をどう進めるのか。保険をどのように考えるのか。復旧作業を受託する際に、その周囲で必要になる知識まで詳しく紹介されていました。

被害を受けた建物を前にすれば、一刻も早く作業を始めたいと思うでしょう。一方で、作業範囲や費用、責任の分担が曖昧なままでは、依頼主も施工者も安心できません。技術を提供することと、仕事として適切に引き受けること。その両方を学ぶ講習であり、復旧を事業として成り立たせるための教育なのだと受け止めました。

近年の活動と、行政との災害復旧に向けた連携

こうした仕事は、すでにさまざまな現場で実践されています。協会の活動報告には、2023年の九州集中豪雨に伴う医療施設などの復旧や、2024年以降の市庁舎、学校、住宅などの浸水復旧が紹介されています。これらは協会が公表している施工・活動事例です。住宅を想定した今回のモデルルームで学ぶ技術も、その先には多様な建物と、そこで暮らし、働く人たちがいるのです。

行政との連携も進んでいます。広島市は2025年3月11日、同協会と災害時の公共施設等の早期復旧に関する協定を締結しました。広島市の協定締結発表からは、専門技術を持つ団体の存在が、地域の復旧体制の一部になっていることが分かります。

清掃と建築の間で、日常を取り戻す仕事

見学を通じて、私の中でレストレーションは「清掃と建築の間にある再生の仕事」として輪郭を持ちました。

通常の清掃だけでは対応しきれない被害がある。一方で、傷んだ部分を撤去し、新しくつくり直す工事に進む前に、洗浄や乾燥などによって回復できる部分を見極める余地もある。もちろん、損傷の状態によっては交換や改修が必要です。その判断も含め、残せるものを適切に回復させ、建物を再び使える状態へ近づけていく。そこに、レストレーションが担う役割があるのだと思います。

災害が起きたとき、求められるのは一日も早い復旧です。住まいに戻りたい。店を開けたい。学校や施設を再び使いたい。その願いに応えるには、知識、機材、経験が必要になります。そして、それらを現場で生かせる人を、平時から育てておくことが欠かせません。

恥ずかしながら、私は、こうした仕事が必要になることは想像できていても、それを体系立てて実践し、広げようとしている団体があることを知りませんでした。

水がまかれた部屋で見たのは、珍しい機材や大がかりな実演だけではありません。被害の状態を調べ、安全を確保して作業を組み立て、結果を確かめ、依頼主と合意しながら復旧を進める。その仕事全体を、次の担い手へ伝えていく姿でした。

建物の日常を支えるビルメンテナンスの仕事にとっても、この分野から学べることは多いはずです。清掃の経験を土台に、建物の構造や乾燥、測定について学びを深めることは、現場で応えられる範囲を広げる機会になるでしょう。

水浸しになった部屋を、再び使える部屋へ。その先にある、人の日常を取り戻すために。日本レストレーション協会の活動と、その技術を担う人たちの広がりに期待しています。

BMマガジン編集部は、こうした復旧技術の普及や人材育成の取り組みを、今後も継続して取材し、紹介していきます。

取材範囲は講習初日(2026年10月1日)です。団体概要と対外的な活動は、協会および広島市の公表資料を参照しました。主催者の開催案内